国際安全保障論 1-1.戦争の原因 戦争の定義

 みなさんこんにちは。早稲田大学の栗崎周平です。私は2013年の4月から早稲田大学政治経済学術院に赴任しました。それまでは日本の大学・・上智大学を卒業した後、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、UCLAで政治学の博士号を取りました。で、その前に就職する前にハーバード大学のジョン・オーリン戦略研究所というところでいわゆる「ポスドク」みたいなことやったんですが、そのあとにテキサスA&M大学というテキサス州にある公立の大学なんですけれど、そこの政治学部で7年間教えてきました。その後、早稲田大学に来たわけです。

僕の専門が国際政治学、特に戦争と平和の原因を探る国際安全保障論の理論研究、実証研究といったものを主にしています。またあと、早稲田大学ではゲーム理論の講義を担当したりもしています。さて、今回の授業、講義なんですけどもここでは国際安全保障論という議論をします。

国際安全保障論は当然、国際政治学の一部分なんですけれども国際政治学の中で国際安全保障論を議論する、その意味は何かということなんですが、1つの例えとして、2013年に特定秘密保護法案というものが国会を通過しました。

それの過程においてですね、立法の過程において、さまざまな反対運動もありました。
そこで大きく分けると安全保障にかかわる事柄の情報の、秘密を守るというですよね、政府の。もう1つは知る権利をどのように守っていくのか。知る権利というのは、シビリアンコントロールあるいはその説明責任、あるいはその民主政治の透明性という意味では非常に重要なポイントなんですけれども、この国際政治学の観点からすると何が重要なのかというと、われわれは知る権利を主張するときに、どのような知識を、あるいは、どのような情報をわれわれは理解すべきか、知るべきかと言うことを理解できているのだろうか。

また、そこで知り得た情報ですね、それを理解する手だてをわれわれは持っているのかと言うことを考えるわけですね。で、そのような手立てを提供するというのが国際政治学の中における国際安全保障論、という風に考えることができると思うんです。

ではどのような手だてを、ここで立てるのか、国際安全保障論はどういう学問なのか、ということにかかわるんですけれども、近年の国際政治学というのはですね、特にゲーム理論の発展もありましてゲーム理論を応用してさまざまに今までの議論が書き換えられつつあるんですね。
そうすると過去20年、特に過去10年間で国際政治学、アメリカでもそうなんですけれども国際政治学の議論、講義というものが大きく様変わりしました。私の講義というのはその新しい潮流を経て日本でおそらく非常に少ない、まだまだ少ない流れだと思うんですけれども、これを提供していくということが主眼になります。どのような新しい流れなのかと言うと主にここでは理論研究、実証研究を重視していくと。つまりどういうことかというと特定秘密保護法案でもいいんですけれどもいろんなことを、さまざまな政治家、あるいは政治評論家も議論すると、ともすると国際安全保障論という学問はそのような当事者、利害関係を持った当事者たちが語る論理を後追いするような議論があり得るわけなんですよね。

しかしここでは、そうではなくて、そこから一歩引いて特に現象についての因果関係を特定するであるとか、その因果関係、さまざまな安全保障にかかわる戦争の原因でもいいんですけれども因果関係を特定したときに、そこの要因をあぶり出していくと。さらに、そこからあぶり出したものから、どのような効果が得られるのかといった議論を展開していきます。
そうすると見えてくるのは何かっていうと政治家あるいは政治評論家が語るような政治の論理というものと、われわれがさまざまに錯綜する因果関係を特定しようとする試み、つまり政治学の論理というのは決定的に異なり得ると。必ずしも異なるとは言いませんが「異な得る」ということを前提に話は始まるわけですね。

でそうしますと、じゃあ、どんな学問の営みをしていくのか、つまりわれわれは何をしていくのかというと例えば戦争が起こると。あるいは北朝鮮が核開発をすると。なぜそのようなことが起きるのかということを問うていくわけです。

つまりここでは謎解きとしての国際政治学、それから、謎解きとしての国際安全保障論というものを展開していくんですね。ということで、JMOOCにおける私の国際安全保障論という講義では、4つに大きく主題があるんですけれども、1つ目は大きく戦争がなぜ起きるのかという戦争のパズル。それから第2週にわたっては国内政治がどのように動いたとき、あるいはどのような国内問題に政治家たちが直面したときに対外的な政策にどのような影響を与えるのか、ということを議論していく、つまり、ここで国内政治と国際紛争のパズルを解いていくと。

それから3つ目、4つ目は、より政策論に近くなっていくわけなんですけれども、その中での1つ目は抑止。抑止と一口に言っても、例えば核抑止の問題、あるいは通常兵器をもとにした、ベースにした通常抑止の問題があるんですけれども、その抑止という政策、メカニズムがどのように作動するのかということを議論していきます。

4つ目としては日本の安全保障を語る時に必ず出てくる二言目に出てくることが日米安全保障条約に基づく日米同盟です。日米同盟というのは、実は、国際政治学から見ると非常に謎の多い不思議なものなんですけれども、その謎を解いていくっていうのが4つ目の同盟のパズルという項になってます。

このように見ていくんですけれども、実はさまざまな国際安全保障における現実の問題というのはですね、実はなぜ戦争が起きるのかという問題に集約されていくんですね。まあそういうこともありましてまず最初の取っかかりとして「戦争とは何か」「なぜ戦争が起きるのか」というパズルを考えていくことから始めます。

で、ようやくここの講義が始まるわけですけども最初に戦争の原因を始める・・議論を始めるうえで、まず、戦争の定義をしてみましょう。いいですか。まず最初にこの有名な歌があるんですけど、みなさんご存じか分からないんですけれども

“War! What is it good for?”
“Absolutely nothing?“

っていうのが。例えば、これは1970年代にアメリカの反ベトナム戦争期ですね、反戦運動の歌として広く歌われていたんですね。最初はテンプテーションズが歌ったり、あるいはエドウィン・スターという人が歌ったんですけど、後にブルース・スプリングスティーンが歌うことによって有名になってるわけですよね。

基本的に何かいうと、もともとは反戦の歌だったので、こういう「戦争は何か」や「もともと役に立たないものだ」「何の意味もない」という議論をするんでけれども実は、国際政治学から見るとこれは非常に筋の通った1つの論理的結論としてもこれが見えてくるということなんです。

ですから、今日の今週の授業ではこれが本当にそうなのか、論理的にそうであるならば、何かというところから見ていきます。また、なんで戦争を議論するのか先ほど、さまざまな問題はさまざまな安全保障の問題はなぜ戦争が起きるのかという議論に集約されるという話はしましたけれども、ただそれを飛び越えて、もう少し規範的な観点からしても、やっぱり戦争っていうのは非常に重要な事象であると、つまり人類の歴史でもっとも最悪な、最悪な事象の一つであると言うことができるんですね。

特に20世紀はある人によればこれは「戦死の世紀」と言われていました。非常に大きな戦争がたくさん起きていた世紀ですね。そこでは400万人以上・・・一つの推定ですけれども400万人以上の戦死が起こったと。また、これは、戦死と言った場合には兵隊たちが戦場での戦死なんですけども、そこでは、それだけではないんですよね、被害が。民間人への被害というのが非常に莫大にあった。それが、数千万人の民間人がさまざまな意味での被害も被っている。

その意味で戦争というのは非常に重要な事象の一つであると。また国際政治学という学問の中においても戦争というのは非常に重要な問いを投げかけるものであると言えるわけですよね。例えばなんですけれども、古代ギリシャにはツキディデスという人がいました。彼はそのペロポネソス戦争というのが当時起こったたわけなんですけども、アテナイとスパルタの間で。それを記述したものが、まあ半分フィクションとも言われるんですが、それを記述したものとして『戦史』というものがあります。

これがまあひとつ言われているのが記録に残る最古の戦争原因の説明の理論であると言われているんですね。また現在の国際政治学、あるいは実際の国際政治のあり方も、この戦争の影の中でいろいろとさまざまに影響を受けているということが言えます。その意味で戦争を議論するっていうことは非常に大事な事柄なんですね。

じゃ、戦争とはなんですかというと、ここで引きたいのはカール・フォン・クラウゼヴィッツという人の定義です。カール・フォン・クラウゼヴィッツという人はもともとプロイセンの将校でして特に将校として活躍したというわけでもまた哲学者あるいは歴史学者ってわけでもないんですね。彼は、実は将校としてはあまり成功せずに、その後、閑職に追いやられて、そこでいろいろと書き連ねていたことがあると。で、それを彼の死後、彼の奥さんが書物にまとめて出したところ後世に残る非常に重要な知見の貢献をしたということなんですね。

ということで、いまだにわれわれもここから議論を出発すると。彼はその戦争とは何とか何かということについてさまざまなことを言うんですけれども、ここでは2つの有名な定義を引きました。1つは、戦争とは、他の異なる手段を用いた政治過程の延長であるということですね。またもう1つ彼が言ってるのは、これ実はちょっと矛盾、相互に矛盾する点も実はあるかもしれないというのが、後の講義で出てくるんですけども、2つ目の定義として彼が言うのは戦争は相手つまり敵に当事者の意思を受け入れさせるための暴力行為であるということを述べるわけなんです。

なんでこの定義が重要なのかと言うと、それはこういうことなんです。つまり、戦争の目的と手段について語っているんですね。まず、そもそ目的とは何かというと、これは、戦争は結局は政治目的のための手段であるということを1つ目に特に言ってるるわけなんですね。

ということはどういうことかと言うと、戦争は武力を用いた政治行為であると。それ自体政治行為なので、実は皆さんが投票に行くということも重要な政治行為なんですけども、その投票に行くという政治行為と戦争を行うという政治行為は政治行為であると。何かしら目的を達成するという意味においては同列の政治行為なわけなんですよね。であるならば、そこには目的があると。目的を考えるのであれば、そこから戦争の合理性というものが考えられ得ると。必ずしもあると言うわけではないんですが合理性があるとしたら、ここから論拠を見つけることができるのかもしれない、という意味でこの定義は重要なんですね。

では、この定義をもう少し引き延ばして考えてみると、どういうことかというと、このインプリケーション、含意を考えてみますと、まず彼が言っているのはつまりその戦争というのは通常の政治過程、ま、国家間の政治過程であれば外交になるわけなんですけど、それによる合意の形成に失敗したときに、では、ということで次に異なった手段、他の手段を用いた政治的な合意であると。

また、そうであるならそこで考えられることは係争当事者の、また少なくとも一方がその対象となっている当該の政治目的を断念することができないと、その時に戦争に訴えるというインプリケーションが出てくるわけですよね。その意味での政治行為なんですよね。さらになんですけれども同じ政治行為、戦争も外交と同じような通常の政治過程と同じような政治過程というふうに考えるんであれば、この2つの比較が出てくるはずなんですね。どういうことかというと、通常の政治過程、つまり外交は、つまり交渉テーブルにおける紛争解決、紛争の政治的解決の過程であると。ひるがえってじゃあ戦争は何かっていうと、それは交渉テーブルではなく戦場という交渉の場においての紛争を政治的に解決しようという試みであるわけなんですよね。

であるならばなぜ戦争が起きるかということを議論するということはどういうことかというと、結局はこの戦争の原因、オプション1、つまり外交ですね。外交を用いたオプション1からオプション2へ、何でどのように移行して行ったのかということを考えるということが戦争の原因を説明するということと考えられるわけですね。

ただここでひとつ注釈を付けておきたいのは、オプション1、外交による決着ですね、これは現実的には双方の・・・(決着を)実現するためには双方の合意が必要になるんですけれども戦場へ行くと、つまりオプション2を取るということは実は合意がいらないんですよね。一方的な決定で決まるということが言えると思います。

カール・フォン・クラウセビッツ
ナポレオン戦争にプロイセン軍の将校として参加しており、シャルンホルスト将軍およびグナイゼナウ将軍に師事。戦後は研究と著述に専念したが、彼の死後1832年に発表された『戦争論』で、戦略、戦闘、戦術の研究領域において重要な業績を示した。

戦争の定義
 「戦争とは、他の異なる手段を用いた、政治過程の延長」 「戦争は、相手(敵)に当事者の意思を受け入れされるための、暴力行為である」